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司法制度改革関係意見書のページ

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 2000年11月20日に司法制度審議会が公表した
 中間報告に対して、個人意見書を提出しました。   
                                     
 
                                             2000年12月14日

司法制度改革審議会
会 長 佐藤幸冶 殿

                                     司法書士 滝 川 あおい
                                     〒579-8036大阪府東大阪市鷹殿町1−7
                                     前川・滝川司法書士・土地家屋調査士事務所                    
                                     tel 0729-81-5281 fax 0729-87-3460
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             中間報告に対する意見書

1 司法制度審議会中間報告書の評価

 司法制度審議会の審議は、議事録・議事要旨の公開、各地での公聴会開催、各種のヒヤリング・アンケート実施・パブリックコメント制度などにより、一見開かれた形をとっている。しかし、司法審は、昨年12月21日に「論点整理」をとりまとめてからは、その論点について実質的な審議をすることなく、一般市民が持つ司法に対する不満と改革を求める声に応えるような態様をとりながら、実は、経済界・最高裁・法務省・一部弁護士・一部マスコミ・一部学者が敷いた路線に基づいて、審議会内部で意見集約を行ったのではないだろうか。それら、今回の司法制度改革を推進する勢力の戦略は、11月20日に公表された中間報告を見たところ、以下のように集約できるものと考える。
 第一に、刑事訴訟については、周辺事態法立法に伴って強化されてきた警察・検察権限を、捜査権限拡大・アレインメント導入・免責証人制度の導入・審理の強権的促進によってさらに強化した。 
 第二に、判検交流が最も問題となる行政訴訟改革は先送りにされた。
 第三に、民事訴訟では、大企業の利潤追求のため、紛争解決の簡易・迅速化をはかるために、弁護士の増員とそれを支えるロースクール制度の導入が図られ、この弁護士改革が、中間報告の中核となった。弁護士改革は、@リーガルサービスに自由競争原理を持ち込んで、弁護士業務をビジネスとしてらえる立場を明確にするA法科大学院創設によって費用のかからない法曹養成制度を実現し、弁護士を増員し、企業の紛争処理を容易にするB民事事件処理を迅速に行えるようにするため、ADR等民間機関の活用を提言し、増員された弁護士の一部に関与させることなどを意図して行われた。
 一方、陪審制度の導入はほぼ見送られ、一部参審制の導入は検討されているものの、市民の司法参加は最低限に止め、キャリア裁判官の見直しは先送りされ、法曹一元制度の導入は明確にはされず、根本的な裁判所改革を行う姿勢は感じられない内容となっている。
 このような中間報告が示す司法制度改革の方向性は、一言でいえば、統治機構の権限を強化する一方、リーガルサービスの市場化による企業本位の司法制度改革であり、市民は不在といえるのではないだろうか。

2 中間報告における弁護士改革と隣接法律専門職種の位置づけについて

 結果として、中間報告においては、法曹人口増員とそれを支えるロースクール制度の創設が司法制度改革の根幹となったが、それに伴い、司法書士を含む隣接専門法律職種の位置づけも、かなり変容したものと思われる。
 1999年12月21日に公表された『司法制度改革に向けて〜論点整理』の本文においては、弁護士隣接法律専門職種に関して、「3司法の人的基盤の強化」の項目の「(1)法曹人口と法曹養成制度」の中で、「法の担い手として法曹だけではなく、隣接法律専門職種等の視野に入れつつ、総合的に人的基盤の強化について検討する必要がある。」とし、明らかに、隣接法律専門職種を、司法制度を支える人的基盤の担い手でありえることを明確にしていた。
 しかし、中間報告においては、隣接法律専門職種は、「4制度的基盤の整備」の項目中の「(1)利用しやすい司法制度」の項目中の「イ法的サービスの内容の充実」の項目中の「(イ)隣接法律専門職種・企業法務との関係」の中で取り上げられており、ここでは、人的インフラとしての位置づけを失っているのである。市民のための大きな司法の実現のためには、人的インフラ整備の一貫として、隣接専門法律職種の活用が有用であるという意味で、司法書士をはじめとする各専門職能の活用が議論されていたはずで、本年8月8日に行われた集中審議第二日においては、北村敬子委員が能力的担保を条件として、司法書士等の隣接法律専門職種に具体的な訴訟関与を認める内容の優れたレポートを提出している。8月8日の集中審議においては、「法曹人口を考えるにあたっては、隣接法律専門職種の扱いが重要な問題」であることが指摘されている。
 本年10月16日付で公表された司法審の資料『「弁護士の在り方」に関する審議のとりまとめ』では、明らかに隣接専門法律職種の位置づけを短期と中長期で分け、隣接法律専門職種は、当面の国民のリーガルサービスに対するニーズを満たすために活用するべきであるとし、弁護士改革が実現した後の中長期的な段階では、むしろ、総合的法律経済関係事務所の実現推進のために活用するべきであるとした。中間報告は、「弁護士の在り方」のようなあからさまな表現は使用していないものの、北村レポートが呈示したような隣接法律専門職種活用の具体的提案は避け、隣接法律専門職種の位置づけを、意図的に極めてあいまいなものにしたのではないだろうか。
 夏の集中審議以来、10月16日に公表された中坊公平氏が執筆担当したとされる「弁護士の在り方のレポート」の公表にいたるまでに、どのような理由によって隣接法律専門職種の活用に向けての審議がトーンダウンしてしまったのであろうか。これは、11月1日、日本弁護士連合会が臨時総会で司法試験合格枠3000人体制を容認するにいたった経過と無関係ではないと考える。
 つまり、市民のための大きな司法の実現のためには、法曹人口増員が必要であり、司法試験合格枠3000人体制によって、ある程度市民のニーズに応ずることが可能となるが、3000人合格体制の結果、弁護士が社会のリーガルサービスに対するニーズに応えるようになるまでに、過渡的に隣接法律専門職種の活用が検討されるべきであるというのが、中間報告における隣接法律専門職種の位置づけであると理解できるのではないだろうか。
 行政改革における規制改革論の中で推進される司法制度改革において、司法書士等隣接法律専門職種は、法曹人口増員・弁護士の業務独占の見直し等弁護士改革を推進するための道具に使われたという感は否めないのである。

3 弁護士は司法書士が社会的に果たしている役割を代替できるのか?

 ここで疑問となるのが、司法制度審議会が容認した、司法試験合格者3000人体制が、司法過疎地におけるリーガルサービスの提供や司法書士が行っている予防司法のための相談業務を当然に賄う結果となるのであろうか、という点である。我々は、規制改革的司法制度改革によってもたらされた弁護士増員は、市民のためのリーガルサービスの提供に直結するものではないと考える。
 弁護士は、司法試験合格者3000人体制により、生計を維持できない弁護士が、登記業務への参入を目指すことになるというが、我が国も、アメリカ型の法律家制度のように、弁護士という法律家制度のくくりの中で、登記や税務の専門家の役割を分担するような制度を目指すことになるのであろうか。経済同友会が本年7月公表した司法制度改革に対する第二次提言における法務サービス法の創設・法律専門職種の統合論・司法書士のロースクール入学の推奨などの提案と、司法制度審議会の中間報告に見る方向性は一致しているように見受けられる。
 しかし、隣接法律専門職種の弁護士への統合論は、我が国の司法にとってあるべき姿なのであろうか。司法書士実務を通じて、我々は、一般市民が訴訟を前提として弁護士に事件依頼をするに至るまでには、相当の経過があるとことを実感する。登記事件の多くは、紛争型のものではなく、それに関連して司法書士が受けている法律相談は、起こってしまった紛争を解決するためのものである場合もあるが、多くは、予防司法の範疇に属するものである。また、いわゆる弁護士過疎地域においては、登記事件のみならず、裁判事務を受託する司法書士の割合は相当に高いが、地方における紛争は地域性が色濃いものが多く、司法書士は、事実上の仲裁役を引き受けるようなケースもある。また、当然のことながら、司法書士が、取引社会において重要な意味を持つ、登記制度の真性を担保するために担っている役割を見逃すことはできない。このような市民に密着した法律家としての司法書士の存在は、我が国にとって必要不可欠なものであり、資格統合・弁護士増員によって代替できるものではない。
また、極端な弁護士増員は、法律家の質の低下を招くばかりでなく、弁護士は、過当競争によって、これまで行ってきたような人権活動へ関与する余裕をなくし、人権擁護の担い手としての法律家としての役割を果たせなくなることになる。リーガルサービスを買うことができる者だけが、司法制度の恩恵を被ることとなり、司法の市場化の現象が起こる。極端な弁護士増員は、ひいては、アメリカのような訴訟社会の到来をもたらすこと確実である。弁護士と司法書士は、司法制度改革論議の中で、熾烈な職域争いを強いられてる部分があるが、今後は、既述のような極端な法曹人口増員が社会にもたらす弊害を防ぐため、共存・共栄しながら、市民のために司法制度改革を推進する必要がある。
 したがって、司法制度審議会は、今後も、司法書士等隣接法律専門職種に訴訟代理権の付与・法律相談権を法定すること等を視野に入れ、市民のための司法制度改革を推進するべきである。

4 司法書士制度活用の方策

(1)司法書士の法律相談権を法定する必要性について

 現在司法書士が社会的に果たしている役割を明確にするために、受託事件に関する法律相談権を法定する必要であるこというまでもない。登記・裁判事務・供託・成年後見問題等、司法書士が受託する事件で、法律的判断を伴わない業務はないのにもかかわらず、法律相談権は、各関連法において定められていない。
 弁護士が弁護士法72条により、法律相談権も独占しているというなら、市民のリーガルサービスに対するニーズに全て応えていなければならない。しかし、現実の取引社会においては、前述のような業務は法律判断を伴うにもかからわず、司法書士が行っているのである。また、阪神大震災などの非常時には、司法書士も積極的に法律相談を行うことによって、被災者支援をした。
 もはや、現状のような形で弁護士法72条を残しておくことは、司法書士が行っている市民に対するリーガルサービスの責任を不明確にするという意味においても、好ましくないものと考える。

(2)司法書士への簡易裁判所等の代理権付与は必要不可欠

例えば、近時激増する消費者破産事件の解決のために、司法書士が消費者倒産手続に関与する機会が増えた。2001年4月1日に施行が予定されている民事再生法の個人の特則が上手く運用されるためには、司法書士が消費者倒産手続の受託にあたり、いかに民事再生手続の特則を活用できるかにかかっているとわれている。消費者倒産手続に関連して、債務不存在確認訴訟や過払い金返還訴訟を起こすことも多く、また、破産手続の場合は、司法書士は審尽にも立ち会うこともある。加えて、消費者倒産の解決には、近時創設された特定調停法の活用も必要である。しかし、司法書士が代理人となれないために、本人が慣れない法廷で右往左往したり、不当な条件で泣く泣く調停を成立させられたりという事例は無数にあるといっても過言ではない。
 弁護士は3000人合格体制によって、このような消費者倒産手続をはじめとする報酬が少ない事件を引き受けるようになるのだろうか。司法試験合格者増は、一義的には、事実上企業内弁護士を増やし、あるいは、企業型の民間ADRに関与する弁護士を増やすことによって、企業のために迅速に紛争解決をすることに寄与するのではないか。
 一般論としていえるのは、司法書士が弁護士が現在受託しない比較的少額な訴訟に関与するのは、多くの場合、登記の受託との関連がきっかけであったり、登記事件である程度の報酬を得ることができるというような登記の専門家としての職能の在り方と密接に関連しているということである。つまり、弁護士が増えても、これまで弁護士が受託しなかった簡裁事件のような少額事件を受託する弁護士が当然に増えるというロジックは成立しないのである。この意味において、司法書士への簡裁代理権等の付与は、司法試験合格枠3000人体制の下においても必要である。
家事事件・民事執行事件・非訟事件も、登記事件との関連で受託を依頼されることが多く、依頼者にとっては、むしろ司法書士が代理権を行使するほうが好ましい場合もあり、司法書士への代理権の付与を検討するべきである。

(3)本人訴訟支援のためには裁判所の運用改善が必要

 司法書士は一方で、本人訴訟支援型の職能として生き続けなければならない。現在の司法制度に対する不審感から、自分で訴訟を行いたいという市民が司法書士への事件受託をする場合も少なくない。中間報告の裁判所改革の中で触れられてはいないが、市民のための司法の実現のためには、補佐人制度の運用を改善し、司法書士が裁判に当事者と共に関与する道を開くことも不可欠であると考える。加えて、現在、簡裁の許可代理制度の運用が司法書士に対して、全く許可の道を開いていないことも問題である。

 以上(1)(2)(3)の提案は、なんら現在の弁護士の職域を侵害する意図でなすものではない。現在司法書士が関与している職能形態に一定の法律的根拠を与えること、市民の利便性のために一定の範囲での代理権を認めること、及び法改正を伴わない裁判所の運用改善を求めているのである。
 なお、司法書士は、(2)で提案する簡裁代理権等の訴訟代理権が付与された場合に備えて、制度内部で、特別研修のためのカリキュラムの策定や体制づくりを行っているところであり、司法制度改革審議会が、要求している能力的担保制度については、界内部で対応することができるものと思われる。

5 ロースクール構想と司法書士養成について

1999年9月20日、東京大学法学部が、ロースクールシンポジウムを開催し、独自のロースクール構想を呈示した。それ以前にも、京都大学法学部が1999年7月3日に、大阪大学法学部が1999年7月5日にシンポジウムを開催しているが、具体的構想の呈示にはいたらなかった。この東大ロースクールシンポを契機に、1999年から2000年にかけて、全国の国立・私立大学がロースクールシンポを開催して、独自色を出しながら、ロースクールへの名乗りを上げることとなった。この間、司法制度改革の中で、ロースクール構想は、急速に注目を浴びる論点となった感がある。
ロースクール構想は、そもそも、司法制度改革論議の中で、法曹人口増員論と不可分一体の論点として位置づけられていたところ、審議会においても、司法試験合格者を年間3000人とすることの合意が明確になるにつれて、そのインフラの確保の手段として、具体化が求められるようになったものと思われる。日本の法曹人口が先進国との比較において極端に少なく、市民の司法へのアクセス権が十分に確保されていないことが法曹増員必要論のそもそもの出発点であった。
司法試験合格者が年間3000人に増大すると、まずは、現在の司法研修所のキャパシティが問題となった。1999年には、司法修習期間は2年から1年半に短縮されたのも、司法研修所のキャパシティの少なさに起因しているものと思われる。そのための代替策として、アメリカにならってロースクールによる法曹養成制度が注目を集めたのは当然のことであろう。
 また、折しも、文部省は、少子化時代の大学のあり方、特に大学院教育を見直し、高度職業人養成のための専門大学院の考え方を提案したところであった。1998年10月の文部省大学審議会答申「21世紀の大学像と今後の改革の方策について」では、ロースクール構想がその具体策として呈示されている。つまり、大学院改革を推進する文部省にとっても、ロースクール構想はわたりに船であったといえるのである。
 自民党は、もともと、法科大学院構想と連動した法律専門家統一試験制度導入を掲げ(2000年5月11日付日経朝刊、2000年5月18日自民党司法制度調査会報告「21世紀の司法の第一歩」)、法科大学院における法曹養成は、狭義の法曹に限定しない方向を示唆していた。つまり、弁護士隣接職能や立法に携わる官庁のスタッフなども統一試験受験者の対象とし、法科大学院構想において、広い意味での法曹養成を行うことを検討していた。
 結果として、中間報告は、法科大学院構想の中で司法書士養成を行うことを提言しなかったが、法科大学院構想は、途中からの進路変更を可能にするような、柔軟な構造を持つものであることが望ましく、司法書士を含む隣接法律専門職種の養成も視野に入れるべきである。以下、法科大学院構想の中で司法書士養成を行うべき根拠を、司法書士養成近畿司法書士会連合会が、本年10月16日付で司法制度改革審議会に提出した「法科大学院構想と司法書士養成に関する意見書」より抜粋する。
 「法科大学院構想による法曹養成制度の対象を狭義の法曹三者のみに限定することは、司法の担い手を狭義の法曹三者に限定し、現在、市民に身近なリーガルサービスを提供している司法書士をはじめとする弁護士隣接職能の果たしている役割を無視することになり、司法制度改革の理念である「国民により身近な司法の実現」にそぐわないものであると考える。法科大学院における法曹養成は、狭義の法曹三者に限定せず、弁護士隣接職能の法律実務家である司法書士も対象とするべきである。
 司法制度改革は、市民がより利用しやすい司法制度を実現すること、つまり、市民の司法へのアクセスを容易にすること、そして同時に市民が多様な紛争解決方法を選択する機会の確保を目的として検討されている。そして、その具体的方法として、法曹一元制度・陪審参審制度の導入等と共に司法の担い手の人的インフラ整備として法曹人口の増員及び法曹養成制度の見直しが提案されているのである。
司法書士は、紛争を事前に防ぐために専門分野における法的な手続きや助言・指導等を通して予防司法を担い、また裁判書類作成により、本人訴訟を支援するという司法の重要な作用の一翼を担っているのが現実である。その意味においても、弁護士の隣接職能である司法書士の養成も視野に入れた法曹養成制度を実現することが望ましい。
 司法書士制度は、弁護士・公証人と同じく明治5年司法職務定制から始まり、近代日本の歩みとともに発展し、現在は市民にとってなくてはならぬ存在となり、市民の厚い信頼を得ている。法科大学院構想が狭義の法曹の養成のみを主眼とする制度であれば、如何に量的に増強されたとしても、市民の司法に対する期待には充分に応えることは出来ないであろう。」

6 最後に

司法制度審議会が、これまで度々指摘されてきた司法制度の弊害の見直しを行うために改革案を提案しているという体裁を装いながら審議を行っておりながら、実はその改革案の内容が、市民の司法に対する不満を利用した、規制緩和論に乗じた国家権力の強化と企業の円滑な経済活動の促進のためのものであるというのは、いかがなものであろうか。中間報告は、本意見書冒頭で述べたように、我が国における一定の支配層による戦略を具体化したものであるということはできないだろうか。
 司法制度審議会の審議における司法書士を含む隣接法律専門職種の扱いは、一定の支配層の戦略のための道具にしか過ぎなかった感はあるが、改めて、市民のための司法改革を実現するために、市民に密着した法律家として、本意見書を提出するものである。

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