国土交通省、住宅新法案により終身建物賃貸借制度提案!
                         司法書士 滝川あおい
 
国土交通省、住宅新法提案!
 国土交通省が、住宅新法を提案する予定です(2001年1月22日付朝日新聞夕刊)。この住宅新法の中には、これまで、生涯借家権構想として論じられていた死ぬまで借家に住める「終身建物賃貸借制度」の創設が組み込まれています。この終身建物賃貸借制度とは、以下のような内容となっています(2000年12月28日付日経新聞)。
1、一定期間分の家賃(原則20年分)を前払いする
  (月7万5000円の家賃の住居の前払い家賃は、20年分で1500万円から2000
   万円程度との試算)
2、高齢の単身、夫婦世帯が死亡するまで住み続ける権利を付与
3、入居後短期間で死亡した場合は家賃の一部を返却
 
生涯借家権以上の問題点
 しかし、この終身賃貸借制度には、生涯借家権構想以上に大きな問題があります。生涯借家権の議論は、定期借家制度の導入に伴い、高齢者に居住の不安が広がっていることから、これに対応するために検討されたものでした(2000年6月25日付日経新聞)。その趣旨から考えると、今回の生涯借家権制度では、高齢者の居住の不安を除去できるとは言えません。なぜなら、現在、賃貸住宅に住んでいる高齢者世帯の多くが、高額の前払い家賃を支払うことができないであろうことが容易に予測できるからです。建設省はこの制度の利用者(借主)として、一体、誰を想定しているのでしょうか。
 
高齢者の住宅トラブル勃発の危険性
 終身建物賃貸借制度では、高齢者の不安を除去できないばかりか、それ以上に高齢者を不測のトラブルに巻き込みかねない問題があります。
 第一に、「20年間住み続ける権利を与える」などと、まるで20年間の居住が保障されんばかりの歌い文句ですが、しょせん民・民の契約です。契約途中での貸主の債務不履行はあり得るし、その際の損害賠償も保障されているわけではありません。愛知県では、東海豪雨で被害にあった借家に住んでいた借主から「大家さんが全く補修をしてくれないので借家にもどれない」という相談を何十件も聞きました。
 第二に、「入居後短期間に死亡した場合は前払い家賃の一部を返却する」といっても、家主に資金の準備がなければ返却のしようがありません(普通借家契約でわずか2年後に契約が終了して返却しなければならないと分かっているはずの敷金でさえ、家主が使い込んでいるケースが多々あります。
 第三に、景気の変動により追加の家賃を請求されるような事態を完全に回避することができません(契約書の特約条項の書き方次第で、契約途中での家賃の値上げは可能でしょう)。
 第四に、20年の契約期間を終了したあとの権利保障がまったくありません。なけなしの預貯金を前払い家賃に費やしてしまった老人は、新たな入居先を求めては差別的扱いを受け、ただただ長生きしてしまったことを恨むしかないのでしょうか。
 低所得高齢者の居住の安定のための方策は、民間に丸投げするような無責任なやり方ではなく、国が責任を持って施策を講じるべきです。
 
高齢者住宅対策を装った正当事由制度骨抜き法案
 今回、国土交通省が提案しようとしてるのは、終身建物賃貸借制度の導入を目的とする住宅新法案といえますが、他には、賃貸住宅のバリアフリー化のための工事費を国と自治体が補助する制度や、高齢者の家賃滞納の場合に公的機関が債務保証する制度の導入がうたわれています。しかし、その中身は明らかにされておらず、「良質な賃貸住宅等の供給の促進に関する特別措置法」のように、努力義務が規定されるにすぎなければ、定期借家制度の導入と同様に、実質正当事由制度を骨抜きにすることを目的として、終身建物賃貸借制度の導入をはかることになるのではないでしょうか。

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